その219 目に見えないものが見えるようになるよう、自らを高めよう!

講演会3連戦の3日目。田坂広志氏の講演会へ行ってきました。

哲学的に今後の経済や世界観を捉えるという、パパ好みの講演会で、案の定大満足でした。

以前から気になっていた田坂さんですが、気がつくとセミナーが満席になっており、なかなか講演を聴く機会に恵まれませんでしたが、今回は丸善丸の内店で2日間にわたり講演会を開催していただいたおかげで、なんとか滑り込むことができました。

短い時間の中で、著書「目に見えない資本主義」の核となる部分を矢継ぎ早に説明をしていくスピード感溢れるな進行であったため、途中ノートをとることに夢中になって一瞬話に置いていかれる状況になったりもしましたが、配布されたレジュメにポイントがしっかりと書かれている気遣いもあり、70分超、ずっと集中して講演を聴くことができました。


以下講演の内容を簡単に取り纏めてみます。

■資本主義の未来を弁証法で予見する。
 ・事物の螺旋的発展の法則 − ぐるっと回って戻ってくる。ただし、1段上がっている。
   例.コミュニケーションの手段(手紙→電話→e-mail)
 ・対立物の相互浸透の法則 − 対立し、競合し合うものは、互いに似てくる
   例.英国の労働党と保守党
 ・否定の否定による発展の法則 − 振り子は極点で、必ず逆方向に振り戻す

■操作主義経済から複雑系経済へ
 ・目の前にあるものを、機械的と思うのではなく、みずみずしく生命的と思う。
 ・物事が複雑になると「生」が宿る。
 ・複雑系の特徴
   ①意図的に管理できない
   ②突如、崩壊する
   ③個々の要素の挙動が支配する
 ・複雑系経済に処するために重要なこと −CSR、企業倫理、行動規範
 ・現在のCSRの問題点
  「CSRを重視しないと競争に負ける」「CSRを重視すれば利益になる」
 ・倫理は市場原理を超えたもののはずなのに、市場原理に縛られている

■知識経済から共感経済へ
 ・4つの資本
   リレーショナル・キャプタル
   トラスト・キャピタル
   ブランド・キャピタル
   カルチャー・キャピタル
 ・ネット革命が目に見えない資本を強化した
 ・資本主義の成熟とは何かを考えるには、人間の成熟とは何かを考えてみる
  → 「目に見えないもの」が見えるようになること
 ・つまり、資本主義の成熟とは、「目に見えない資本」を重視するようになること

貨幣経済から自発経済へ
 ・現在資本主義の最大の落とし穴は、「貨幣経済」だけが経済であると思い込むこと
 ・他にも、「交換経済」(バーター経済)、「贈与経済」(ボランタリー経済)がある。
  永年人類を支えてきたのは「ボランタリー経済」 ex.家事、育児
 ・弁証法に基づくと、次は、マネタリー経済ボランタリー経済の融合が起こる。
   ex.アマゾン、グーグル、リナックス

■享受型経済から参加型経済へ
 ・参加型経済は、資本主義の在り方、社会の在り方を根本から変えられる
 ・イノベーションパラダイム転換が起こるから参加型経済へ変わる
 ・イノベーションパラダイム転換は、人々の「幸福感」にかかわる
 ・完全な社会、理想な社会などあり得ない
 ・したがって、人々が幸福に感じるのは、社会変革に参加しているとき

■無限成長経済から地球環境経済へ
 ・有限の経済とは、有限の空間、有限の資源を前提とした経済
 ・成長への限界を前提として、有限経済へパラダイム転換しなければならない
 ・これは日本型経済への回帰ではないか

■「企業倫理」を身体化していた日本型経済
 ・もともと日本企業の倫理観は自律的であった
  (江戸時代からあったCRS思想 ex.渋沢栄一、住友家訓、近江商人
 ・「自律的規範」「自発的使命」は、法律的強制ではなく、個人の倫理観・価値感、組織の空気、社会の文化レベルで存在していた
 ・「罰」ではなく「恥」の文化という美意識
 ・いかにして社員の倫理観を高めることができるか
  →「悪いことをしてはならない」という教育ではなく、「良いことを為そう」という教育の結果、自然と身につくもの

■「見えない資本」を見つめていた日本型経営
 ・「目に見えない資本」を見つめていた日本の経営者
  → 社員の目の輝き、社員の働き甲斐、職場の空気や雰囲気、顧客への共感、社会からの信頼、世間の評判
 ・社員が見つめている報酬感も2つ存在する
  ①目に見える報酬−給料や年棒、役職や地位
  ②目に見えない報酬−仕事の働き甲斐、職業的能力、人間的成長、職場の仲間との出会い
 ・「千人の頭(かしら)になる人物は、千人に頭(こうべ)を垂れる人物でなければならない」

■社会貢献と利益追求を統合していた日本型経営
 ・マネタリー経済ボランタリー経済の融合 → 利益追求と社会貢献の統合
 ・日本型経営を象徴する「三つの言葉」
  ①企業は、本業を通じて社会に貢献する
  ②利益とは、社会に貢献したことの証である
  ③企業が多くの利益を得たということは、その利益を使ってさらなる社会貢献をせよとの世の声である
 ・利益追求と社会貢献とはいずれが企業の究極の目的か

■主客一体を追及していた日本型経済
 ・「操作主義」を捨てること
  ×「いかにして、顧客に自社の商品を買わせることができるか」の発想
  ×「いかにして、顧客を、リピート客にすることができるか」の発想
 ・日本型経営の顧客観 → 顧客は鏡、顧客とともに成長する、一期一会、おもてなし
 ・「ものづくり」に「こころ」を込める文化

■「有限・無常・自然」を前提としていた日本型経営
 ・これから世界全体が向かう「新たな価値感」(5つのパラダイム転換)
  ①無限から有限へ/狭い国土
  ②不変から無常へ/ドックイヤーの時代
  ③征服から自然へ/共生から自然(じねん)へ
  ④対立から包摂へ/多元主義、大乗の思想
  ⑤効率から意味へ/急がば回れ、大器晩成、足るを知る、一隅を照らす、塞翁が馬、苦あれば楽あり、ゆっくりと歩む
 ・なぜ日本型経営が復活するのか
  → 歴史の弁証法/古くて懐かしいものが、新たな価値を伴って復活する
 ・歴史の螺旋階段を世界に先駆けて登る、という使命

私見
 資本主義社会に対して、弁証法などの哲学的なアプローチをしつつ、未来を予測していて、たいへん面白かったです。
 アルビン・トフラーの未来学に通ずるものがあり、聴いている者の心を一瞬のうちに引き寄せていきます。
 確かに大きく見ていくと、弁証法の中にある螺旋階段的なイノベーションがはあるのかなとも思う一方、全てがそれには収まらないだろうという思いもありました。
 もちろん、全般には大いに共感でき、とても勉強になりました。
 特に世界が無限から有限へとシフトする中での、日本が果たせる役割という点に、大いなる希望を持ちました。

 そして、自省を込めてですが、「人間の精神の成熟とは、「目に見えないもの」が見えるようになること」という言葉。
 パパにはまだまだ見えないものが多すぎます。
 精神の成熟を目指して、自らを高めていきたいと思います。


本日のパパからのメッセージは、

「目に見えないものが見えるようになるよう、自らを高めよう!」

です。


今日のメッセージは、とても精神的であり、抽象的に見えますが、実態として存在するのです。

周囲の空気、雰囲気を察知できる感性は、今後ますます情が薄れてくるであろう中では、より重要視されるであろうと思います。

このような感性を育むために、特定の枠に留まることなく、多様な人間と接したり、さまざまな小説を読んだり、感情を大きく揺さぶってみてください。

心の振り幅を大きくすることにより、目に見えない感度が上がっていくと思われます。